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あそびば

今月のおすすめ映画 『恋人たちの食卓』『華麗なる恋の舞台で』

台湾は映画のタイトルのつけ方がうまい。去年話題をさらったTBSのドラマ、『逃げるは恥だが役にたつ』は、『月薪嬌妻』で、「月給制のかわいい奥さん」というような訳になるそうだ。

アン・リー監督の邦題『恋人たちの食卓』という名画がある。一流ホテルで料理長をしている父のもとへ、毎週日曜もどってくる約束になっていた4姉妹の恋愛模様と父親との関係を描いている。だから、「恋人たちの」となるんだろうけども、オッサンが誰かに勧めるにはなかなかハードなタイトルだ。

ところが原題となれば『飲食男女』。飲み食いする男たち女たち、こっちのほうが俄然いいでしょう? 漢詩と同じく、漢字の意味と音感の深さが活きているのだろう。

もう一つ、名画なのに人にお勧めするとき、口ごもってしまうタイトルといえば、『華麗なる恋の舞台で』。サマーセット・モーム原作『劇場』の映画化だ。主人公ジュリアを演じるアネット・ベニングの、魅力的で堂々たる演技がとても素晴らしく、ラストのスカッとする展開は、爽快な後味を残してくれる。傑作だ。

だが、紹介するとなると、「華麗なる」のみならず「恋の」までくると心が折れかける。お前、どんだけ「恋モノ」好きだよと思われそうで。だが、原題を覚えておけば、そんな苦労とはおさらば。加えて「原題まで知ってる映画ツウなんだよ」という自慢まででき、時には反感まで買えるというスグレモノだ。

ではいこう、原題は「Being Julia」、ジュリアであること。今後は「『ビーイング・ジュリア』すごくいいよ、あ、邦題は『華麗なる恋のなんちゃら』だけど」と使えばいい。

もう少し作品に近いところの話をすると、本作は「ある年齢を迎えた大女優ジュリアがふと立ち止まり、『私ってどうなのだろう』とアイデンティティの危機にぶつかり、色々とあって、最後に『私は私でいく』となる」作品だ。「自分が自分であること」が本作のテーマであり、それをこれ以上ないくらい的確にタイトル化できているのだ。

『飲食男女』と『Being Julia』、お勧めなのでぜひ一度ご覧ください。ほら、紹介しやすい!